ここでは、本研究室が取り組む消費者行動の持続可能性分析の例を1つ紹介します。
消費者意識と行動のギャップに関する分析
近年、日本や世界中の国々(特に先進国)において消費者の環境保護意識は高まりを見せています。例えば、ユーロバロメータの調査によると、EU市民の94%が環境保護を個人的に重要だと感じており、彼らの87%が自分自身の行動が環境保護において重要な役割を果たすと考えています。この結果は、後述する我々が2022年に日本で6000人の消費者を対象に行った調査結果とも一貫しています。我々の調査の結果、日本の消費者の多くは高い環境保護意識を持っていることが分かっています(下図参照)。
このような意識-行動ギャップは何故生まれるのでしょうか?これが私たちが挑戦する研究テーマの一つです。具体的に、我々の研究チームでは、このギャップの要因の一つに生産者と消費者が上手くコミュニケーションを取れていないことがあると考え、これを解消するための手段としての「エコラベル」に目を付けました。
エコラベルは、生産者が消費者に自社製品の環境性能を伝えるための有用な手段の一つです。製品やサービスの環境性能は見た目ではわかりませんが、製品パッケージに右下の図のようなラベルを貼り付けることで、消費者はそれが環境に配慮した製品であることを瞬時に理解することできます。図中に掲載されたラベルのうち、少なくとも1つ以上を目にしたことがある読者の方は多いのではないでしょうか?
エコラベルには消費者の購買行動における意識-行動のギャップを解消することが期待されていますが、エコラベルが実際にその役割を果たせているかは疑問が残ります。皆さんは実際にこのエコラベルを考慮して製品を購入したことがあるでしょうか?ユーロバロメータが行った調査を再度例にとると、環境保護意識の高いEU市民であっても、過去6か月でラベル付き製品を購入した人はわずか20%足らずという結果でした。
この事実を踏まえ、我々の研究チームでは、2022年に日本の消費者6000人を対象とした「環境保護意識と環境保護行動(特にエコラベルの利用)に関するアンケート調査」を実施しました。そして、調査結果に計量経済学の分析モデルを適用することで、消費者がエコラベルを考慮するために重要な要素について明らかにしました。
まず、アンケート調査の結果、日本人消費者の7割以上がエコラベルについて知っていることがわかりました(左下図参照)。また、彼らのうち、日頃からエコラベルをかなり考慮する(もしくはやや考慮する)と答えたのは4割弱程度でした(右下図参照)。
さらに、この調査結果に計量経済学の分析モデルを応用すると、消費者がエコラベルを考慮するために特に重要な要素が明らかになりました。具体的に、ラベルの信頼性、消費者の環境意識、消費者の価値観の3つが消費者がエコラベルを考慮するために重要な要素であることがわかりました。特にラベルの信頼性は、他の要素に比べ、ラベルの運営機関の努力次第で改善できる可能性があります。
分析の詳細については、以下の論文①をご覧ください:
論文①: Nakaishi, T., Chapman, A., (2024). Eco-labels as a communication and policy tool: a comprehensive review of academic literature and global label initiatives. Renew. Sust. Energ. Rev. 202, 114708. https://doi.org/10.1016/j.rser.2024.114708.